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◆ 「しな鉄」が軽井沢駅に遊園地を開設するワケ

◆ 「しな鉄」が軽井沢駅に遊園地を開設するワケ アウトレットに対抗、「旧軽」と鉄道がタッグ

東洋経済オンライン】 04/03

大坂 直樹 :東洋経済 記者

 軽井沢は日本を代表するリゾート地だ。

1000メートル程度の標高があるため夏でもさわやか。

避暑地として古くから人気が高く、別荘やホテルが立ち並ぶ。

 そんな軽井沢のイメージを一新するようなプロジェクトが軽井沢駅でスタートした。

しなの鉄道(しな鉄)・軽井沢駅のスペースを使って“遊園地”を造るというのだ。

● 森の中の遊園地をイメージ

 しな鉄の設立は1996年。

長野新幹線開業に伴い、JRから切り離された並行在来線しなの鉄道線として1997年から運行している。

長野県が大株主で、軽井沢町など沿線自治体も出資する第3セクターの鉄道会社だ。

地域の鉄道会社という事情もあって、会社の経営目標は単なる鉄道の安全・安定運行にとどまらない。

駅を核とした沿線の街づくりにも力を入れている。

 3月14日、同社は軽井沢駅駅ナカ開発に関する発表を行った。

しな鉄線開業20周年ということもあり、その内容はかなり大がかりなものだ。

1、2番線ホームと旧1番線ホームの間をデッキでつないで広場にする。

そこに1周100?程度のミニ列車や、使われなくなったレールの上を足でこぐ「レールバイク」を走らせる。

引退した列車を置いて車内をプラレールなどのおもちゃで遊べる場所にする。

また、飲食、書店、衣料品、雑貨などを販売する。

引退したEF63形電気機関車など車両も展示する。

各所に植栽を施し、森の中の遊園地のようなイメージを出すという。

 新幹線開業に伴い役割を終え、現在は軽井沢駅北口の隣で記念館として公開されている旧・軽井沢駅舎に改札口や駅事務室を設置して再び駅として活用する。

さらに、新幹線駅に隣接する現行の改札口は維持しつつ、事務室を移転させ商業店舗スペースを拡張する。

総投資額は2.5億円。

全額を自己資金で賄う。

 工事は今年4月に開始し、10月に遊園地と旧駅舎が完成する予定だ。

商業店舗スペースに関しては今年10月から工事を開始、来年春のオープンを見込んでいる。

現在の軽井沢駅北陸新幹線としな鉄線の2路線が乗り入れるが、旅行かばんやお土産を両手に抱えた観光客でごったがえす新幹線のホームに比べると、しなの鉄道のホームは影が薄い。

これらの計画が完了すれば、しな鉄の存在感はぐっと高まる。

 プロジェクト全体のデザインはJR九州の列車デザインで有名な水戸岡鋭治氏が担当する。

水戸岡氏はしな鉄の観光列車「ろくもん」のデザインも行っている。

 「日本一の避暑地・軽井沢でデザイナーが仕事をするのは覚悟がいる」と水戸岡氏は言う。

JR博多シティの屋上施設や東京・日本橋室町にある書店の内装など鉄道以外でも数多くのデザインを手掛けているが、それでも水戸岡氏にとって、軽井沢でデザインをすることに対しては特別な思いがある。

 水戸岡氏は旧駅舎のクラシカルなたたずまいが以前から気になっていた。

「この建物を使えば、面白いことができるはず」と思っていたら、しな鉄の玉木淳社長からアプローチがあった。

● 2.5億円の予算で5億円に匹敵するものを造る

 玉木社長が水戸岡氏に依頼した理由は、「ろくもん」のデザインで実績があったことはもちろんだが、「ローカル鉄道会社の現状をよく知っていること」も大きな理由だという。

地方の鉄道会社の経営はどこも青息吐息。

大きな予算は出せない。

実際、玉木社長はほかのデザイナーに依頼することも考えたが、見積書に記載された金額を見て断念した。

 その点、水戸岡氏は「2.5億円の予算で5億円の価値があるものを造ることできる」と言う。

もちろん簡単な話ではなく、8時間かかる作業を4時間で済ませるような効率面での工夫は必要。

作業を業者任せにせず地元も汗をかくといった協調態勢も欠かせない。

 デザイン上でも水戸岡氏のアイデアがふんだんに詰まっている。

たとえば、車輪の付いた可動式ハウスや屋台。

地面に定着させないことで建築基準法の適用外とするのが目的だが、季節やイベントに応じて並べ替えることができる。

また、園内には神社、教会、お寺なども設置、駅ホーム近くのスペースにテーブルを置いて結婚式やパーティもできるようにしたいという。

遊園地の名前は「森の小リスキッズステーションin軽井沢」。

長い名前だが、「“小リス”とか”リスキッズ”とか、お客様のほうで短い愛称を付けてくれるでしょう」と、水戸岡氏は意に介さない。

 避暑地として発展した軽井沢は、美しい自然に囲まれてのんびり過ごす大人の街というイメージがある。

子供向けの遊園地を造ってイメージを損ねることはないのだろうか。

こんな質問を玉木社長にぶつけてみたところ、明確に否定された。

 理由は1995年に駅の南側に開業したアウトレット「軽井沢・プリンスショッピングプラザ」の存在だ。

季節を問わず多くの買い物客が自動車や新幹線に乗ってやってくる。

軽井沢駅前に古くから広がる観光・商業エリア「旧軽井沢」に対して、アウトレット周辺は「新軽井沢」と呼ばれる。

軽井沢町が2012年に実施した調査では旧軽と新軽の来訪者数はほぼ同数。

50〜60代では旧軽の人気が高いが、40代以下では新軽のほうが高い。

玉木社長は「軽井沢町としても、軽井沢=アウトレットのイメージがつくことは憂慮しており、今回の旧駅舎記念館を活用した北口活性化が待望されていた」と言う。

 またアウトレットにやってくる家族連れも多いが、アウトレット内で子供が遊べる施設は決して多くはない。

「子供が楽しめる場所があれば、北口に多くの人を呼び込むことができる」と玉木社長はにらんだ。

この遊園地のターゲット層は6歳程度の子供達。

水戸岡氏も「明確に子供をターゲットにすることで、親や祖父母もついてくる」と言う。

うまくいけば、遊園地をきっかけとして、軽井沢の北側にたくさんのファミリー客を呼び込めるかもしれない。

遊園地で遊ぶことで子供達が軽井沢旅行を「楽しかった思い出」として記憶してくれれば、長期的にも有益に違いない。

 軽井沢観光客の7割は自動車に乗ってやってくるといわれている。

当然ながら、しな鉄を利用することなく帰ってしまう。

玉木社長はそれが口惜しくてならなかった。

その打開策として考えたのが、観光列車「ろくもん」に乗って地元産のワインを楽しむワイン列車。

自動車の運転手は運転中にお酒を飲めない。

だったら、列車に乗ってお酒と食事を楽しんでもらおうというアイデアだ。

● 地元との一体化、ワイン列車が好例

 駅ナカ開発の発表後にワイン列車の試乗会が行われた。

車内にはワインの生産者やシェフが乗り込み、地元のワインや食材の長所を懸命にアピールしていた。

停車する駅でも地元の人達がホットワインや食材でおもてなしをしていた。

 ろくもんの製造費は1億円強。

JR九州の豪華寝台列車ななつ星 in 九州」の製造費30億円にかなわないのは当然としても、他のJR九州の観光列車と比べても低く抑えられている。

それでも料理、お酒、そして地元のおもてなしなどを総合的に考えることで、「ななつ星を除けば、ろくもんは全国の観光列車のナンバーワン」と、水戸岡氏は太鼓判を押す。

記者が「リップサービスですか?」と確認したが、「本当です。書いてもいい」と言い切った。

同乗していた長野県在住のエッセイスト・玉村豊男氏も「7の次は6。(水戸岡氏の発言は)当然でしょ」と言って、周囲の笑いを誘った。

 豪華な車両だけ造っても観光列車は成功しない。

地元が一体となって観光列車を盛り上げられるかどうかが成功のカギを握る。

遊園地にも同じことが当てはまる。

ワイン列車のように地元が積極的に運営に参加すれば、遊園地が軽井沢の町を変える起爆剤になるかもしれない。

      ◇◇◇

大坂 直樹(おおさか なおき)

東洋経済 記者

生命保険会社勤務を経て2000年に東洋経済新報社入社。

産業担当記者として小売り、自動車、化学など幅広い業界を取材。

現在は鉄道、映画・アニメ系の記事を積極的に執筆。

恒例の『週刊東洋経済』臨時増刊号「鉄道特集」では毎年企画・編集も担当。

日本証券アナリスト協会検定会員

記事一覧 http://toyokeizai.net/list/author/%E5%A4%A7%E5%9D%82_%E7%9B%B4%E6%A8%B9